ソフトウェアの品質とハードウェアの品質
ソフトウェアやシステムの世界で働いている人にお聞きすると品質についての認識が (加工メーカ、完成品メーカ問わず) ハードウェアの人と違うことに気づかされます。
ハードウェアを作っていても制御にソフトウェアを使うので、ハードウェアの人もソフトウェアから逃れることはできませんし、ソフトウェアの技術者もハードウェアに関連した業種で働いている人も多いと思います。
また、ソフトウェアの技術的な特徴から、その開発の仕方から作り込みのプロセスに関していろいろな方法論が検討されています。その結果、品質や開発プロセスに関しても明文化されている知識が多く、それらを学習することはソフトウェアが搭載される製品を作ってるハードウェア担当の方、またソフトウェアと関連がない(機械加工のみなどの)分野の製品を作ってる方もその考え方は参考になる部分が多い(というか基本的な意味は同じ)と思うので、今後時々話題に上げていきたいと思います。
今回は、私がソフトウェア開発の技術者の方から聞いた中で理解できたその特徴と、ハードウェアの技術者の方が理解しておくと相互理解が進みそうなポイントの概略を簡単に書いておこうと思います。
・ソフトウェアは目に見えない
ハードウェアでも回転しているエンジンの中や走行中の自動車の構造などを見ることはできませんが、ソフトウェアでも同様に動作中の回路の中でプログラムがどのように動作しているか見ることができません。しかもどんなに簡単なプログラムであっても動作させてみるまでちゃんと動作するかわかりません。
ハードウェアの場合は試運転した後分解して動作の状況を確認しますが、ソフトウェアは動作した後の痕跡がプログラム上に見える形で残らないことが多いです。そのために、実際にどのように動作したかはその結果を見ないといけません。動作した時のログを残すようにすることも可能ですが、そのログをどのタイミングで残すかというのもソフト開発上の管理ポイント次第になりますので、管理ポイントの設定ミスがあった場合には本来欲しい箇所のログが記録されないことになります。
また、動作させたプログラムが途中で止まった場合は、止まったところから先の部分に関しては確認ができませんので、その部分は先送りになります。かつソフトウェアで恐ろしいのは、書かれているコードがどのように書かれているかでどこに影響するのかがわからないケースがあることです。
これはものすごく恐ろしくて、動作が想定されていないタイミングである機能が動作した場合、想定されていない事故が発生する可能性があります。それがないように機能の動作仕様を丁寧に決め、製品の状態において各機能がどのような状態にあればいいか整理した上で設計し、実際にそれに則ってプログラムが書かれるようになっていなければならないのです。
逆に言えばソフトウェアに関してはこれらの、何をしたいかを決める要件定義、どういうものを作ればそれが実現可能かを示す仕様設計、その仕様をどのように形にするのかの詳細設計、詳細設計を実際に形にする作業が明確に分けられ、丁寧に実行されます。
これはいろいろな開発プロセスの形がある今の時代でもそれぞれが何らかの形で存在し運用されるプロセスです。
・ソフトウェアを作るのは全部手作業だけどコピーは容易
特に部品の製造をやられている会社などでは、加工機の自動化が進んだ現在では製造は自動化され、CADから読み込んだ図面データから機械の動作を決め加工するのが一般的だと思います。
しかし、まだ多くの場合ソフトウェアは人の手で作られます。そして不具合を直すのも人手です。その分それだけの時間がかかりますし、ミスも発生します。かつ先にお話しした動作させないと分からないという問題があるので、検証用の環境を使いながら作られます。ハードウェアだと各個人が検証設備を持つなど考えられませんが、それが可能であり、それをやらなければいけないのがソフトウェアの世界でもあります。
よくAIの活用が取り上げられますが、そのAIが何をどのように学習するのかも人間が決めますので、そもそも最初に作る時に想定していなければ、自動で学習してくれることはありません。つまり、どんなに技術が進歩しようと、何をしたくてどういう道具と方法でそれを実現しようとするかは結局人が考える部分として残る可能性があります。
その一方で一度作ってしまえばソフトウェアはコピーが容易なので、今まで手作業で実施していた社会の中のある仕事は一瞬で自動化できます。自動機を使用する上でのノウハウは各社お持ちだと思いますが、そのノウハウというのはすなわちそれぞれが仕事をしてくる中で「顧客の要望に応えるためにはこのように工夫しておいた方がいい」という知見です。
その知見こそが、自社の「人が考える部分」になります。もしこの部分がなくなってもいい物であればその会社は消滅し、その会社に勤めていた人は別の仕事で手を動かす必要が出てくるでしょう。この話題はこちらの「カン・コツを明文化する」と同じ内容になりますので省略します。
カン・コツを明文化する
カン・コツを明文化しないと、カン・コツの要らない世界になっちゃいますよ?
・ソフトウェアはハードウェアの制約を受ける
どんなにいいものを作ってもソフトウェアは実装されるハードウェアの制約を受けます。「新しいOSを導入したらパソコンの動きが遅くなった」という経験をお持ちの方も多いでしょう。これはOSがパソコンというハードウェアの影響を受けているからです。
ソフトウェアを動作させるハードウェアの仕様や性能を決めておけばある程度使用環境に対して融通がきく部分もあります。例えばMicrosoftが作るWindowsは市販のWindows用のパソコンに搭載できる部品であればある程度交換しても動作可能です。それはもちろんそのWindowsのバージョンによって要求された動作仕様と性能を満たしていることが条件ですが。
実はここでは機能、動作、構造を分類して一般化、規格化することによって会社をまたいでも共通の認識を作ることが役に立っています。会社の中や組織内部に関してのそのような話については以下の記事で書いていますので参考にしてみてください。
組織を機能させるために必要な3つのこと
ここまでのことを反対から捉えれば、ハードウェアの作りを十分に理解しないままソフトウェアを作る事は非常に困難なことばかりか、ハードウェアを破損する、最悪の場合にはその破損によりユーザの身体の安全を脅かす事故を起こす可能性があります。
同じ製品に搭載されユーザに価値を提供する以上、ソフトウェアとハードウェアの相互理解と技術的特性を生かした役割分担は必ず有効に働くはずです。またその技術的特性の違いがあっても、その技術的アプローチには学ぶところが多いと思います。
自分の担当する技術分野以外の情報を集める意味でも、その特性を理解することは意味があると思います。