医療周辺技術の広がりを感じた、2022年のMedtec Japanレポート

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2022年4月20日~22日の3日間に渡り東京ビッグサイトにてMedtec Japanが開催されました。同時開催の見本市も含めて医療・製薬に関する技術とサービスが集積された展示会となっていました。今回はその中から特に工業系を中心に、医療向けとして提供されているものの中から一般の工業分野にも適用できそうなもの、また一般向けからアプローチを変えることで医療にも適用できる形になっているものなどを展示していたブースを主としてご紹介していきたいと思います。

・日本ゼオン株式会社

Medtec JapanのZEONブース。材料のみの取扱いから加工品への展開を開始した企業の、製品化の着眼点が興味深い。

日本ゼオン株式会社は樹脂材料を製品メーカに販売する企業です。近年は材料メーカが一部加工まで手掛けて販売するケースもよく見られますが、同時に既存の顧客と競合しないように異なる分野や加工方法を探すことが求められるため、展開の幅が狭まることがよくあります。日本ゼオンではそれを新しい領域に展開することで回避しています。

日本ゼオンのマイクロ流路試作サービス。顧客が展開する領域を避けながら、開発時のニーズを満たすサービスになっている。

日本ゼオンは成型済みの樹脂材料に切削でマイクロ流路を製作するサービスを展開。マイクロ流路とは医学・生物・理学分野の他、一部工業分野でも求められている微細な流路です。実験する際などは最適なパターンを求めるため様々な流路パターンが作られます。パターンを変えやすい加工方法がとられるため、エッチングなどで作ることが多いです。

日本ゼオンではこれを切削で行うことで試作品1個からの対応が可能、トライアルで実験して最適な流路パターンで量産に入れる形になります。一方で切削するための刃物の寸法で流路の幅が決まるなどの制約もあるので、求める仕様とマッチするかの確認が重要になります。しかし切削で作る分パターンはきれいなため、量産時の品質はエッチング等の成型技術と比較すると高いレベルで安定すると思われます。

・ダイワ化工株式会社

Medtec Japan内名古屋商工会議所エリアにブースを構えたダイワ化工株式会社

名古屋商工会議所エリアにブースを構えていたダイワ化工株式会社は今までは自動車メーカ向けのゴム製品製造に強みを持っていましたが、ゴム成型に長けたその技術力で他の業界にもアプローチしています。ダイワ化工ではゴムの成型部品の中に別部材を仕込む二色成型やインサート成型などの方法にも対応可能で、硬度や弾性の違う面を同一部品の中に作ることもできることになります。

他材料のインサートも可能なことを金型を展示してアピール。

成型可能なゴム材料の種類も多く、また3Dプリンタを導入しているため、ゴムライク樹脂を用いた従来の成型・切削に留まらない形状が実現可能、大藪代表は「3Dプリンターと射出成型を組み合わせた加工方法で作った製品は今後増やしていきたい」とのこと。

ゴムのような弾性を持つゴムライク樹脂で成型された部材も展示。

このラーメンは様々なゴムを使用して作られているため、ゴム材料の使用方法のサンプルとしてもよくできていると思います。理工系の学生さんはこれでそれぞれのゴムの硬度や成型状態の特徴なども勉強できるのではないでしょうか。丼もゴムでできていて、本来はここに液体ゴムのスープが入りますが、展示会出展時は運べないためスープは入っていない。

第二回くだらないものグランプリ出展作品の丼まですべてゴムでできたラーメン。本来はここに液体ゴムのスープが注がれる。

このゴムのラーメンは、昨年2021年10月2日に配信されたくだらないものグランプリ2021の出展作品。くだらないものグランプリは今年も第三回が開催予定、今年も各企業が業務の枠を超えて技術を使う様子が見られるのを期待しましょう。

・株式会社オーケーシー

主に医療用のドリルを展示しているOKCブース。

同じく名古屋商工会議所エリアから、株式会社オーケーシーはチタン製の医療用ドリルを出展。砥石による研磨で作られた微細な刃物はステンレスより高い硬度を実現しており、金属アレルギーへの影響も小さいチタンの医療用向けのメリットを生かした製品になっています。

ステンレスより高い硬度を実現。軽量で耐腐食性もいいチタンの特性を生かした製品になっている。

チタンなので製品そのものに色を付けることが可能。用途別やサイズ別など目視で確認することができるので、手術中などの交換する時間が制限されやすい医療現場

着色されたチタン製ドリル

応用先に合わせて異なる形状も用意できるため、適用範囲は広そうです。インプラント手術用など歯科用途を前提としたPRをしていましたが、材料費がSUSと比較すると高めなこともあり、個人開業医よりも大きめの病院での使用例の方が多そうです。

形状、サイズとも幅広く対応している。

チタンというと高価なイメージがあり、実際に単価は高くなりがちですが、性能としてチタンだからこそ作れるものもあるので、その性能にマッチした市場や使い方をするユーザには最適なツールとなると思われます。また砥石での切削・研磨での製造ということで、サイズは小さいものの形状のバリエーションなど今後の展開も考えられる製品の様に思います。

・サン樹脂株式会社

加工事例豊富なサン樹脂ブース。写真の3Dプリンタ+切削加工のサンプルも展示されていた。

名古屋商工会議所エリアから3社目のご紹介です。サン樹脂は樹脂の切削を専門として、PC(ポリカーボネート)などの樹脂材料からCFRPなどの繊維強化樹脂にも対応。最近では3Dプリンタと切削による後加工を組み合わせた高精度なプラスチック部品の製造にも対応し、今回もそのサンプルを展示していました。積層で形状を作る3Dプリンタは穴形状の正確な出力が困難(積層方向に潰れるなど)なケースがありますが、切削であればその心配もなく高精度な加工が可能になるなど、加工の組み合わせのメリットをアピールしていました。

プラスチック部品に求められる形状、表面性状、強度等様々な相談に応じているサン樹脂

切削なのでバルクからの削り出しで1個からの製造も可能。実験や試作なども含め、何らかの疑問や求めることがありながら困っているなら一度問い合わせてみてもいいのではないでしょうか。

・株式会社ユニオンシンク

薬事業界向け品質管理システムをアピールするユニオンシンクブース

生産工程の品質管理というと仕上がりを工程内検査で確認したり製品データや機械の動作データに対して管理図を導入するなどがイメージしやすいところではありますが、あえて「製薬メーカ向け」とする理由は何なのでしょうか。

株式会社ユニオンシンクによると、製薬メーカでは改ざんに対する記録の厳密さを求められるということで、同社がそれらの業界に納める際には変更管理の部分に重点が置かれたり、工程中の逸脱管理や評価等で発覚した品質不良に関する情報をリンクさせて管理するなど変更点とその結果を結び付けた管理を強く求められるという点が特徴的でした。

変更管理対応が大きく示されたシステムフロー

同社の品質管理システムは業界向けに特化したものも多く、それに付随して業務管理や人材教育に関する情報もシステム内でリンクできるようにしているなど、品質情報に関して必要な要素を社内から収集しようとする製品構成になっているように感じました。

・カールツァイス株式会社

プロジェクトのフェーズごとに測定器を提案していたカールツァイス。

メーカ向けに測定器をアピールしていたのはカールツァイス株式会社です。同社の測定器は測定顕微鏡の光学測定器から接触式の三次元測定機、X線CTによる非破壊三次元測定まで網羅し、素材や製品形状などの特性に合わせた測定器を選択できるようになっています。

・マナブデザイン株式会社、株式会社リサシステム

マナブデザインとリサシステムの合同ブース。医療機器の常時監視システムを展示。

最後にご紹介するのはマナブデザイン株式会社株式会社リサシステムの合同ブースです。同ブースでは医療機器の稼働状況の常時監視システムを展示、システム開発をリサシステムが、デザインをマナブデザインが手掛けた合作の商品です。

マナブデザインでは設計段階での商品のデザインを請け負う形ではなく、顧客の課題と向き合い、どの様に考えクリエイティブに展開していくか、最終的には顧客の組織にどのように落とし込むかまでを顧客に伴走しながら提供しています。

日本の中小企業は特定の技術分野で開発や生産の受託を主とする企業が多いので、開発・企画フェーズや要素技術と製品開発の橋渡し、製品設計へのユーザニーズの反映などに対応できないケースも見られます。それらの課題意識を持つ企業にとっては有効なサービスなのではないでしょうか。

・医療分野と工業

金属加工や実験器具などで医療分野と工業は近いものがありましたが、2022年のMedtecで受けた印象としては、医療分野に進出したい企業、医療分野が求めている技術ともに広がりがあるように感じました。医療分野は最近ではコロナ禍における治療やワクチン接種などの設備の運用やオペレーションの構築などが話題に上りましたが、それにとどまらず医療分野の変化に沿って既存の産業にも新しい対応の仕方が求められるかもしれません。

現状で受注状況が安定している業種も今後の展開のために違うアプローチを考えておく、例えばより小さいロットサイズに対応する、取り扱う製品サイズの幅を広げる、製品安全や品質の安定レベルを上げる(狙う業界によっては下げる)ことなども含まれてくると思います。自社で取り組めることから始めることと、顧客の業界が求めることの両面から調査と取り組みを始めるのがいいと思います。

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