「写真を先に撮って欲しい」人の気持ち
弊社では写真や映像製作のお仕事もさせて頂いております。そんななか、最近はサイト制作やパンフレットのご相談など、写真を使用するPR用制作物のご相談も増えています。
パンフレットやWebサイトはそのクライアントの方のやりたいことや思いが表現される物なので、クライアントのご意向やお気持ちをおうかがいしてどのようなものにしたいかを考えていきます。
その中で結構多いのが「写真を見てイメージを決めたい」、「写真が大事だから吉田さんまず撮ってよ」というお話です。これは弊社の、ひいては私の写真を気に入って頂いている証で、とても嬉しい名誉なことです。しかし、クライアントのお気持ちにあるのは写真を気に入ってくださるそのお気持ちだけではないようです。
そんな時のクライアントは「写真を見ながらサイトやパンフレットの雰囲気を決めよう…」とも思ってらっしゃるケースが多いようです。つまり、自分達の会社、仕事、製品のどこをどのように見せたらいいのかわからない、どのようにまとめるかアイデアがわかないなど、迷っている状況だということです。
企業のPRのためのサイトやパンフレットなどでは会社や製品、サービスの特徴だったり、魅力的な部分など、自社が見せたいと思う部分を見せがちです。ただ実はそれだけでは不足で、お客様が見たい、欲しいと思っている部分も適切に表現する必要があります。更にはお客様が想像していないけど、知るとお客様のメリットになったり魅力的に感じたりする部分が見せられたら最高です。
サイトなどで見せるべきものが定まらないということは、二つの要因があります。
- 自分達の製品やサービスで何を見せたいかわからない
- お客様が見たいと思っている部分がわからない
商売している人が自分の売り物を適切に理解することは大事なことですが、一方でそれが難しいことであるのも事実です。実際、「これは売れるぞ!」と思った商品が売れなかったり、「この商品の売りはここだ!」と思ってても、実際に買う人は違う理由で購入を決めていた、お客様が当初は想像していない使い方をしていた、などという経験は多くの方がしていると思います。これはそのまま「自分がいいと思っている部分」と「お客様がいいと思っている部分」が乖離していることを示します。
大手企業でも「宣伝部」などコンテンツ制作を社内で行うことがなくなった現在、カメラマンはクライアントにとって部外者です。かつ、カメラマンは視覚を主に使って、その企業や製品、サービスに含まれる表現したいストーリーを形にします。つまり部外者の視点を持って観察しています。更に出来上がった写真にはピントが合った所とぼやけたところができ、被写体の何を表現しようとしたか一目瞭然です。一方で、その前段階(お仕事の依頼を受けた段階)では、クライアントが考えているイメージをカメラマンは詳細に聞くことができます。
これによって、カメラマンの中では社内の視点(クライアントがいいと思っている部分)と社外の視点(お客様がいいと思っている部分)が同時に存在することになります。これはマーケティングのための調査をしているのにも似ています。この内容を元に、写真はもちろんパンフレットやWebサイトなどの制作物の方針も詰めていきます。
つまり、写真撮影を最初に依頼される方が考える「写真を通して自分たちの価値を再確認しよう」というアプローチは、写真撮影がPR用の制作物を作るプロジェクトの中でプロトタイピングとマーケティングの位置にあることと同じ意味を持ちます。
プロトタイピングとは「まずやってみて、その製品が作れるのか、作る意味があるのか調べてみる」ことを意味します。「やってみた結果」を見て、「結果を使った調査」をして、プロダクトに対する要求(要件定義)や仕様を考え、改善したり、複数の職種・業種にまたがるプロジェクトチームの認識を合わせて以後のコミュニケーションを円滑にしたりするためのプロセスです。
部外者をプロジェクトに投入するのは多くの場合で困難を伴います。なぜなら、部外者はそのプロジェクトの意味も、発案した人物や企業に関する情報も知りません。事前情報がないためプロジェクトメンバーと方向性が一致せず、受け入れた側が突拍子もないと感じる意見ばかりが出て「結局何の役にも立たなかった」と感じて終わってしまうことすらあり得ます。
では何故カメラマンならいいのかというと、上でも書いたように、依頼を受けた段階でクライアントは何を求めているか確認できるタイミングがあるからです。カメラマンに写真を発注すると必ず「どんな写真が欲しいですか?」と問われます。この問いのみで明確なイメージを伝えられるクライアントはほぼいませんので、追加でご質問をしていくことになります。
- その写真はどのような使い方をするか
- その使い方の目的は何か
- どんなイメージがいいか
- 被写体は実際にどのようなものでどのような使われ方をするか
- 写真を見た結果、お客様はどのような気持ちになっていてほしいか
- 被写体を通じて、お客様にどのように感じてほしいか
写真を使う目的が何か、被写体が何かにもよりますが、打合せの中で撮るために必要な情報を聞きだしていきます。弊社ではこのタイミングで、製造業でもよくつかわれる「なぜなぜ分析」と同じアプローチをします。被写体と作りたい制作物のお話を聞きながら、何を見せたいのか、クライアントはその被写体になるものをどのように育てていきたいのかを丁寧に聞き出します。
一方で部外者は時と場合によればユーザになる立場です。カメラマンが入ることで、カメラマン自身の中に「この製品ってこういう風に使えそうだな」とか「この被写体はここがすごく魅力的だな」とかいう感情が生まれます。そこで弊社では必ずクライアントに「最初に拝見した時、こういうところがすごくいいなぁと思いました」などと実際に感じたことをお伝えするようにしています。
そうするとクライアントの反応が悪いことはまずありません。こちらが感じたこととクライアントの思いが一致して「そうでしょう!」となるか、こちらの印象に対して意外な感想を持ち「そうお考えになりましたか」となるケースが多いです。前者の場合であれば、制作物のイメージを作るまで一直線に進みます。後者の場合ですとクライアントのイメージと弊社の印象のすり合わせを行い、方針を決めることになります。
その時、弊社は相手のいいところ、魅力的なところが明確にイメージできていることが求められます。まだ世に出ていないものの場合、マーケティングとしてはこの段階ではサンプル数は1なのでデータとして信用に足るものではないのは当然です。だからこそ、自分が何を感じたのか、その印象はなぜ生まれたと考えられるかを丁寧にご説明する必要があるのです。その結果にクライアントの視点とお客様の視点が交差するポイントが生まれるのです。
この様な理由で、写真はPR用プロダクトのプロトタイピングとして有効な一手法になり得ます。