【本件、保証外です!】#2-1 なぜ日本の製造業は“売る”ことができなくなったのか

ー失われたマーケティング機能と、大手依存の終焉
「うちには技術がある。良いものを作っている自負もある。でも、自社製品を作ろうとしても、何をすればいいのか、どこに売ればいいのかが全く見えない。」
中小の製造業でも自社製品を作ろうという動きがある日本の各地で、中小製造業の経営者の中にはそう思って立ち尽くしてしまっている方もいるのではないでしょうか。かつて「世界の工場」と謳われた日本のものづくり文化は今、深刻な「機能不全」に陥っています。それは単なる景気の善し悪しではなく、私たちが長年依存してきたビジネスモデルの構造そのものが、音を立てて崩れているからです。今回は、なぜ日本の製造業が「自ら売る力」を失ってしまったのか、その構造的な病理を解き明かします。
1. 大手サプライチェーンという「温室」の功罪
日本の中小製造業の多くは、高度経済成長期から続く「大手メーカーのサプライチェーン」の一員として成長してきました。トヨタやソニーといった世界的メーカーを頂点とするピラミッドの中で、特定の部品や加工技術を極めることで、日本の産業は支えられてきたのです。このシステムは、非常に効率的でした。中小企業は「何を作るか」「誰に売るか」「いくらで売るか」を考える必要がありません。それはすべて、頂点に立つ大手メーカーが決めてくれるからです。
- 図面は大手から降りてくる。
- 販売ルートは開拓されている。
- 需要予測も大手がやってくれる。
中小企業に求められたのは、ただ一点。「いかに高品質なものを、1円でも安く、納期通りに納めるか」。この「生産技術」の追求に特化することが、これまでの正解でした。しかし、この特化こそが、現代において「片肺飛行」の状態を生み出す原因となったのです。長年、マーケティングという「市場を読み、製品を定義する力」を外部(大手)に委ね続けてきた結果、自社の中にその筋肉が全く育っていない。つまり、日本の製造業は「温室」の中で育ちすぎてしまい、大手のサプライチェーン外の荒野で自ら獲物を狩る方法を忘れてしまったのです。
2. 大手メーカーはもはや「リスク」を取らない
「がんばって高精度な試作品を作って大手メーカのバイヤーに見せれば、いつか道が開けるはずだ」
「この新商品なら、卸や小売店も扱ってくれるかもしれない」
そう信じて、身を削って開発を続けている経営者もいます。しかし、ここで冷酷な現実を見つめる必要があります。かつての日本には、個人の目利きで「この技術はうちの次の製品に使える!」「面白い、うちで扱おう」とリスクを取って採用してくれる熱血バイヤーがいました。しかし、今の成熟しきった大手企業に、そのような人材を期待するのは酷です。
現代の大手企業の意思決定は、極めてコンプライアンス重視で、データに基づいたリスク回避型の意思決定です。もしあなたが画期的な自社製品を持ち込んだとしても、彼らはこう問いかけるでしょう。「コンセプトは面白いですね。で、これはすでに市場で何個売れているんですか?」
あなたが「これから御社で売ってほしいんです」と答えれば、話はそこで終わりです。彼らにとって、未知の製品を自社の販路に乗せるのは「コスト」であり「リスク」でしかありません。彼らが求めているのは、すでにどこかの小さな市場で人気が証明され、あとは巨大な販路に乗せれば「確実に数字が出る」という保証がある商品だけです。
「あなたが手売りして何個売ったのか。自社のECサイトでの受注状況は?それで売れていないなら、うちが扱っても売れるはずがない」
この言葉は、冷たい拒絶ではありません。現代のビジネスにおける、当たり前すぎる「算盤の弾き方」なのです。サプライチェーンという護送船団は解散しました。私たちは今、「まず自力で市場性を証明せよ」という、かつてないほど厳しい要求を突きつけられているのです。
3. 「顧客と会わない」という構造的欠陥
製造業が新規事業に失敗するとき、最大の理由は「顧客の顔が見えていないこと」にあります。受託製造・下請け加工をメインにしていると、顧客とは「発注元の担当者」のことになります。しかし、本当の意味での顧客とは、その製品を使い、価値を感じ、財布からお金を出してくれるエンドユーザーです。
従来の構造では、中小企業とエンドユーザーの間には、大手メーカー、商社、卸売、小売店といった幾重もの壁が存在していました。この壁が、市場の生の声を遮断してきました。 「この製品のここが使いにくい」「こんな機能があればもっと高くても買うのに」といった、宝の山であるはずのフィードバックが、現場の製造者や下請け企業には届かない。
この「顧客との接点の欠如」が、いざ新規事業を立ち上げようとした時に、「独りよがりの製品開発」を招きます。自分たちが誇る「すごい技術」を詰め込んだものの、市場のニーズとは180度ズレている。そんな悲劇が、あちこちで繰り返されています。
4. 危機感を超えた「期待」への転換
ここまでの話は、非常に耳の痛いものだったかもしれません。しかし、絶望する必要はありません。構造を理解することは、解決への第一歩だからです。私たちが「売れない」のは、能力が低いからではなく、単に「売るためのトレーニング」を積む環境にいなかっただけです。そして、時代は変わり、今や巨大な資本を持たない個人や小さな会社でも、ダイレクトに市場へアクセスできるツールが揃っています。大手企業がリスクを取らなくなったのなら、個々の小さな事業者が自ら小さなリスクを取り、市場の熱狂を証明すればいい。そのための武器は、すでに私たちの手の中にあります。
次回は、この「失われたマーケティング機能」をいかにして取り戻し、世界に打って出るか。その具体的な戦略として、日本が世界に誇る「同人」という文化的な仕組みをビジネスに昇華させる「日本版ガレージスタートアップ」の概念を詳しく解説します。日本の製造業には、まだ底力があります。それを呼び覚ますのは、大規模な設備投資でも、壮大なビジョンでもありません。もっと身近で、もっと泥臭く、しかし何よりもエキサイティングな「遊び心」に満ちたアプローチなのです。
