価格はコストの積み上げだけでは決められない

自社製品を作れるようになった。品質も管理できている。サプライチェーンも構築した。では、いくらで売るのか。ここが事業として成り立つかどうかの分かれ目です。

多くの企業がやりがちなのが、作業時間や設備費をチャージとして積み上げ、そこに利益を乗せるという計算です。下請けの受注生産であればそれで成り立つこともありますが、完成品として市場に出す場合、この方法だけでは通用しないことが多いのが実情です。なぜなら、市場には競合が存在し、顧客には予算があるからです。
そしてあなたは競合より自社の製品の方がいいことをアピールするために広告宣伝費をかける必要があり、いつ注文が来ても大丈夫なように材料や製造済みの製品の在庫を持つ必要があり、在庫にかかる固定資産税も払わなければいけません。さらに言えば、あなたには製造物責任があり、製品を使用した顧客に不利益があった場合、それを補償しなければいけません。説明書を読んでも使い方が分からなかった顧客のためにサポートする必要も出てきます。

完成品の価格は、「売れる価格」と「維持できる利益構造」の両方を見て決める必要があります。いくら正確にコストを積み上げたところで、市場がその価格を受け入れなければ売れません。かといって安く設定しすぎれば利益が残らず、事業を続けることができません。製造原価思考だけでは、事業にはならないのです。

仕入れ値3割という感覚がなぜ重要か

自社製品の価格を考えるとき、一つの目安になるのが「仕入れ値3割」という感覚です。仕入れ値——つまり外注費や部品代など、社内加工費を除く外部調達コスト——が販売価格の3割以下に収まるように設計するという考え方です。

なぜこれが重要かというと、仕入れ値が価格を圧迫すると、残りで社内コスト、販管費、広告宣伝費、そして利益を賄わなければならなくなるからです。ここに余裕がなければ、新たな開発投資にも手が回らず、販促もできず、事業としての自由度が消えてしまいます。

価格の内訳を整理すると、仕入れ値が約3割、社内加工費や人件費・減価償却費などの社内コスト、販売管理費や広告費などの販管費、そして利益という構成になります。製造業の営業利益率は一般的に数%と低い水準です。だからこそ、薄利であっても安定して稼働し続ける製品を持つことが重要になります。自社製品は「作れた」かどうかではなく「回り続けるか」で評価すべきものです。

品質は「高い・低い」だけでは語れない

ここでもう一つ、品質についての理解を深めておきましょう。品質は「高い」「低い」という一軸で語れるものではありません。

たとえば、耐久性は非常に高いが重い製品と、耐久性はそこそこだが非常に軽い製品があるとします。どちらの品質が良いかは、顧客の用途によって変わります。建設現場で使う製品なら耐久性が求められますし、営業先に持ち歩く道具であれば軽さが優先されます。

品質とは多元的な概念です。軽さ、耐久性、見た目、使いやすさ…これらはすべて品質の構成要素であり、どれを重視するかは顧客が決めます。「品質が高い=良い製品」という単純な図式ではなく、顧客が何を価値とみなすかによって良い品質の定義そのものが変わるのです。

メーカーの仕事は、価値を一致させること

だとすれば、メーカーの仕事は単にスペックの高い製品を作ることではありません。顧客が製品に抱く期待と、メーカーが提供する価値を一致させることです。

どれだけスペックが高くても、顧客が求めていない方向に尖っていれば売れません。逆に、突出したスペックがなくても、顧客のニーズに正確に応えていれば選ばれます。スペック至上主義は技術者としては理解できますが、事業としてはズレを生む原因になりえます。

自社製品の品質の中で、何を強みとして打ち出すのかを意識的に選び取ること。そしてその選択を、製品設計にも価格設計にもサプライチェーンにも一貫して反映させること。それがメーカーとしての本当の設計です。

品質を伝える力が、最後に利益を決める

そして最後に忘れてはならないのが、品質を伝える力です。

どれだけ良い製品を作っても、その価値が伝わらなければ価格は受け入れられません。これは顧客に対してだけでなく、外部パートナーに対しても同じです。「なぜこの品質が必要なのか」「なぜこの仕様でなければならないのか」を説明できなければ、適正な価格での取引も、協力関係の構築も難しくなります。

ブランディングやマーケティングは、見た目を飾る仕事ではありません。品質を翻訳し、相手に伝わる形に変換する仕事です。技術者が考える品質と、顧客が感じる価値の間には、しばしばギャップがあります。そのギャップを埋めるのが「伝える力」であり、それが利益を生む最後のピースになります。

値付けは計算ではなく設計です。そして品質とは、作るだけでなく、伝えて初めて成立するものです。

自社製品を持つとは、製品を生み出すことではありません。サプライチェーンを組み、品質を言語化し、顧客のみならず外部との責任を引き受け、価格と価値の整合を設計すること。その全体が、完成品メーカーとしての仕事です。

著者プロフィール

Takahiro Yoshida
Takahiro Yoshida株式会社コルプ代表 / QA+編集長 Founder & CEO, QUALP Inc. / Editor-in-Chief, QA+
2008年より精密機器メーカにて民生機器の製品開発における品質保証業務に従事。機械部品を中心としたハードウェアの保証業務5年、機器に搭載するファームウェアの品質保証を4.5年経験。設計部門と連携した開発プロセスからの品質向上、量産を見越した品質構築を実現する。ハードウェア経験も活かしつつソフトウェアの品質向上を実現し、開発会社と連携した担当機種で不具合の低減を達成。
2018年に株式会社コルプを設立、代表取締役就任。写真・映像などのPRコンテンツの製作と品質保証を中心とした業務改善で中小企業を支援。潜在的不良リスクの低減から不測のコスト増に対応できる組織構造の構築にノウハウを持つ。YouTubeチャンネル運用支援では顧客が自立してチャンネルを運用できるよう育成まで行う。業務改善支援では中小企業の30代中堅社員の業務管理方法の改善指導をした上、業務標準化を進めるなど管理面に関する支援を行う。
「判断と構造で、未来に舵を切る人のためのメディア」QA+を立上げ、編集長として各種コンテンツの製作・ディレクションを行う。

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