
品質が曖昧なままでは発注できない
前回、自社製品を持つとはサプライチェーンを設計することだと書きました。では、そのサプライチェーンを実際につなぐとき、中心にあるものは何でしょうか。それは品質です。
外注先に「良いものを作ってください」と伝えるだけでは、それは要求になりません。必要なのは、QCD、品質・コスト・納期を含めた具体的な要求仕様です。どういう寸法で、どの程度の精度が必要で、表面処理はどうするのか。材質はどれを使い、検査はどの基準で判定するのか。こうした一つひとつを言葉と数値で明示してはじめて、発注は成立します。曖昧さを残したまま「あとはよろしく」で通じると思ってはいけません。
欲しいものの輪郭が曖昧な企業ほど、発注の場面で事故を起こします。「思っていたのと違う」「こんなはずじゃなかった」というトラブルの多くは、品質の定義が不十分なまま発注してしまったことに起因しています。相手の技術が悪いのではなく、こちらの要求が伝わっていないのです。品質の言語化は、外注先のためだけではありません。自分たちが本当は何を欲しいのかを、自社の中でも明確にするプロセスです。
逆に言えば、自社が求める品質を言語化できる企業だけが、まともなサプライチェーンを組めます。品質を定義できない企業は、的確な注文を出すことすらできません。
品質要求は、発注能力そのものである
品質の言語化とは、具体的にどういうことでしょうか。図面がある。仕様書がある。検査の観点と許容範囲が明示されている。これらが揃って初めて、それは「注文」と呼べるものになります。
発注とは単なる購買行為ではありません。品質要求を相手に提示する行為です。ここが弱い企業は、価格交渉も納期交渉も空中戦になります。「もう少し安くなりませんか」「もう少し早くなりませんか」と言ったところで、品質の基準がなければ、何を根拠に交渉しているのかが不明確です。品質を下げれば安くなるのか、工程を変えれば早くなるのか、その判断材料がなければ議論は前に進みません。
要求仕様が固まることで、求める品質レベル、許容できる納期、想定するコスト感が初めて明確になります。そしてその明確さこそが、交渉の出発点になります。品質を定義する力は、すなわち発注する力なのです。ここを軽視して「安くて早ければいい」と発注してしまう企業は少なくありませんが、その結果として手戻りや不良が増え、かえってコストも時間もかかるということは珍しくありません。
品質基準は、外部企業との交渉の土台になる
外部企業との交渉は、突き詰めれば「このレベルのものを、この値段と期間で作れますか」という対話です。この対話が成立するためには、品質基準がなければなりません。
品質基準があるから、可否判断ができます。複数社の比較ができます。代替案の検討もできます。
「A社はこの精度を出せるが納期が長い。B社は納期は短いが精度がやや落ちる」
こうした判断は、基準があってはじめて可能になります。基準がなければ、比較のしようがありません。逆に、品質基準を握っていない会社は、相手の提示する条件に流されるだけになり、実質的に主導権を持つことができません。
サプライチェーンにおける交渉力とは、声の大きさや取引量の多さだけではないのです。「自分たちが何を求めているか」を明確に言えるかどうか。その力が交渉の結果を左右します。品質を定義できている企業は、交渉の場で対等に立てるのです。
品質基準は、自社の実力を測る物差しでもある
品質を定義する行為には、もう一つの側面があります。それは自社の実力を測る物差しになるということです。
社内だけで完結していると、自己評価が甘くなりがちです。「うちの品質は高い」と思っていても、外部の企業と比較した瞬間に、そのレベル感が自己満足だったと気づくことがあります。自社が設定した品質基準を外部パートナーに提示し、やりとりする中で、「ここは確かに強い」「ここは意外と甘い」という客観的な評価が見えてきます。
品質基準を定めて外部に提示するということは、他社を評価するためだけの行為ではありません。同時に自社を評価する行為でもあるのです。品質を軸にした外部との対話が、自社の現在地を教えてくれます。この「自社を知る」というプロセスを経ることで、次にどの品質を伸ばすべきか、どこに投資すべきかという経営判断の精度も増していきます。
品質とは、製品の出来栄えだけを指す言葉ではありません。それは、サプライチェーンをつなぎ、交渉を成立させるための言語です。次回は、外注先との関係において発注側にどのような責任が残り続けるのかを整理します。
著者プロフィール

- 株式会社コルプ代表 / QA+編集長 Founder & CEO, QUALP Inc. / Editor-in-Chief, QA+
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2008年より精密機器メーカにて民生機器の製品開発における品質保証業務に従事。機械部品を中心としたハードウェアの保証業務5年、機器に搭載するファームウェアの品質保証を4.5年経験。設計部門と連携した開発プロセスからの品質向上、量産を見越した品質構築を実現する。ハードウェア経験も活かしつつソフトウェアの品質向上を実現し、開発会社と連携した担当機種で不具合の低減を達成。
2018年に株式会社コルプを設立、代表取締役就任。写真・映像などのPRコンテンツの製作と品質保証を中心とした業務改善で中小企業を支援。潜在的不良リスクの低減から不測のコスト増に対応できる組織構造の構築にノウハウを持つ。YouTubeチャンネル運用支援では顧客が自立してチャンネルを運用できるよう育成まで行う。業務改善支援では中小企業の30代中堅社員の業務管理方法の改善指導をした上、業務標準化を進めるなど管理面に関する支援を行う。
「判断と構造で、未来に舵を切る人のためのメディア」QA+を立上げ、編集長として各種コンテンツの製作・ディレクションを行う。






