被災した北陸新幹線の営業面への影響を考える

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2019年10月12日~13日の台風19号の被害は非常に大きいものでした。各地で亡くなられた方にご冥福をお祈り致します。また被害にあわれた方にお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復興をお祈り申し上げます。

前回は車両が水没した北陸新幹線の復旧に求められる要件について考えてみました。

JR東日本から復旧見込みについて発表があったようですので、主に北陸新幹線の部分について確認してみます。中央本線についても言及がありますので、発表資料をリンクします。

【北陸新幹線】
○長野~飯山間の線路が冠水した影響で、北陸新幹線は長野~上越妙高間で運転を見合わせております。現在、東京~長野間及び上越妙高~金沢間で特別ダイヤにて折り返し運転を行っております。


○現地付近の浸水が解消されたことから、15日より長野~飯山間の線路冠水箇所の点検を開始しました。現時点で信号関係の電源装置に甚大な被害が確認されており、この電源装置の復旧には概ね1~2週間程度かかる見込みです。ただし、信号制御装置等このほかの設備に不具合が認められた場合には、設備の復旧まで更に時間を要することになります。これらの復旧ができ次第、長野~上越妙高間は運転を再開いたします。

○長野~上越妙高間の運転再開により、北陸新幹線は全線(東京~金沢間)での運転再開となりますが、長野新幹線車両センターにて新幹線車両が浸水したことにより、使用可能な車両が通常の3分の2程度になります。このため、北陸新幹線全線(東京~金沢間)運転再開後の運転本数はこれまでの5~6割程度となる見込みです。

北陸新幹線及び中央本線(高尾~大月間)の現況と今後の見通しについて , 2019年10月15日東日本旅客鉄道株式会社 (引用:2019/10/16)

地上側設備の被災状況と合わせて車両の被災の言及がされており、やはり運用に投入可能なのは2/3程度、全線での運転再開後の本数は5~6割とのことで、実際に運転再開した後の稼働率が2/3を切るのは、前回のでも書いた運用中の定期整備による運用離脱分も含んでの予測でしょう。

営業用車両は当然定期的に点検と整備が必要なため、地上側の設備の復旧が完了するまでは整備待ちの車両は営業に投入できないことになります。

JR東日本が持つ他の設備を使用するにしても、そちらは他路線で運用中の車両も入るので、順番待ちが発生すれば、北陸新幹線用の電車が後回しになることも考えられ、北陸新幹線の営業に対する影響は0ではないでしょう。

2019年台風19号の鉄道被害と、北陸新幹線の復旧要件を考える, 2019/10/15 QA+

・北陸新幹線の営業力の減少による減収分を予測する

車両が被災した影響は運転本数の減少、すなわち旅客数源による収入減少に現れます。北陸新幹線はJR東日本が営業する高崎~上越妙高間とJR西日本が営業する上越妙高~金沢間に分かれます。

【JR東日本区間の減収分】
JR東日本は「路線別ご利用状況」として各年度ごとの一日当たりの乗客数と最新年度の旅客運輸収入についての情報が公開されています。

高崎~上越妙高間の平均通過人員(人/日)
2015年度 37,050
2016年度 35,899
2017年度 36,127
2018年度 37,056

高崎~上越妙高間の旅客運輸収入(百万円)
2018年度 66,299

JR東日本 路線別ご利用状況(2014~2018年度)より2019/10/16引用

(筆者注)2014年度からのデータで2015年からの記載になっているのは北陸新幹線長野~金沢間の開業が2015年3月14日ダイヤ改正からのためと考えられます。

高崎~上越妙高間の平均通過人員(人/日)は2015~2018年度の平均で36533人/日となります。乗車率は時間によってばらつきがあると考えられますが、輸送力の減少に合わせて一様に乗客数も減るとすると全線での営業再開からしばらくは50~60%の約18270~22000人程度となると考えられます。

また2018年度の収入は66299百万円(662億9900万円)となり、一日当たりの旅客運輸収入に均等割りで換算すると約181.6百万円(約1億8160万円)となります。2019年度も何事もなければ2018年度と同程度の収入があったと仮定して、今回の台風分の減収分を試算します。前提条件は以下です。

・JR東日本発表の全線運転再開後の運転本数がそのまま収入に影響すると仮定する
・ JR東日本発表の全線運転再開後の運転本数が 年度内は維持されると仮定する(他線区からの支援増備が不可能な車両のため、整備が早く終わる以外の補充はなさそうと考えられるため)


全線運転再開後の収入は100%ダイヤ通り運行できた時と比較して50~60%と見積もって収入は約90.8~109百万円(約9080~1億900万円)となり、緩めの見積もりとして60%で運転できたとしても一日当たりの減収額は約72.7百万円(約7270万円)程度にはなりそうです。

仮に2週間後の2019年10月30日で全線で営業再開しても2019年度はあと154日ほどありますので、一日当たり72.7百万円の減収がその全期間にわたり発生したとすると、11195.8百万円(111億9580万円)の収入減となりそうです。これは2018年度の収入の約16.9%に相当することになります。

加えて、2019年10月29日までの15日間は高崎~長野間の区間運転となり、また投入できる車両が限られることからここでの収入減も発生します。高崎~長野間の過去4年度の平均通過人員は約42537人/日で、50~60%の運転本数となると約21268~25522人/日の輸送量となりそうです。

収入に対するこの区間の割合が示されていませんので、ここでは高崎~長野間の収入に関しては計算しません。

【JR西日本区間の減収分】
JR西日本は「データで見るJR西日本: 区間別平均通過人員および旅客運輸収入(2018年度) 」として2018年度の区間別平均通過人員と旅客運輸収入を公開しています。

それによると上越妙高~金沢間の2018年度の情報は以下のようになります。

上越妙高~金沢間の平均通過人員(人/日)
2018年度 23,001

上越妙高~金沢間の旅客運輸収入(百万円/年)
2018年度 42,954

JR西日本  データで見るJR西日本区間別平均通過人員および旅客運輸収入(2018年度)
より2019/10/16引用

JR東日本の場合と同様に、2019年度も何事もなければ2018年度と同程度の収入があったと仮定して、今回の台風分の減収分を試算しようと思いますが、JR西日本については少々状況が違います。その状況の違いを踏まえつつ前提条件は以下のように考えることにします。

・JR西日本の公式発表には上越妙高~金沢間の折り返し運転に関する間引き率の情報がないため、JR東日本の情報を転用する
・ JR西日本区間では金沢~富山間の「つるぎ」があり、また現時点で金沢車両センターにどの程度の車両が留置されているか分からず、またそれらが今後どのように運用されるかの見通しが立たないため、JR西日本区間については実際の運転本数の間引き率はもっと少ない可能性がある


JR西日本区間についてはJR東日本よりも運転本数は多い可能性がありますが、2019年10月16日時点では暫定的にJR東日本と同じ50~60%の運転本数と仮定します。

上越妙高~金沢間の平均通過人員(人/日)が2018年度の50~60%とすると約11500~13800人となります。

また2018年度の収入は42954百万円(429億5400万円)となり、一日当たりの旅客運輸収入に均等割りで換算すると約117.7百万円(約1億1770万円)となります。運転本数を 50~60%と見積もると収入は約58.8~70.6百万円(約5880~7060万円)となり、緩めの見積もりとして60%で運転できたとしても一日当たりの減収額は約47.1百万円(約4710万円)程度にはなりそうです。

JR西日本の営業線区は台風の影響を受けていませんので、すでに運転が再開されています。仮に2019年10月15日から運転を再開し、同じダイヤを維持するとなると2019年度の運転日は169日となります。

47.1百万円の減収が169日間にわたって発生すると、2019年度は約7955.3百万円(約79億5530万円)の収入減となりそうです。これは2018年度の収入の18.5%に相当することになります。

・被災エリアにないJR西日本の特異要素

今回被災しているのはJR東日本エリアでJR西日本エリアについては影響がありません。そのことがJR西日本に与える影響をプラス面とマイナス面に分けて考えてみます。

【プラス面】
・JR西日本エリアは復旧のコストが発生しない
・金沢~上越妙高間の運転は残された車両のみとはなるものの運転区間とダイヤを JR西日本のみでコントロールできる
・W7編成2本がJR東日本エリアで被災していることからJR東日本から何らかの補償 を受けられる可能性がある

【マイナス面】
・東京に直通する「かがやき」「はくたか」の乗客が期待できなくなる
・仮に輸送量オーバーになったり、定期点検で車両が足りなくなったりしても車両 の補充ができない

特にマイナス面のうち、東京からの直通の乗客がいなくなることの影響が読めません。運転本数が維持できても、直通運転がなくなることによる減収の方が大きい可能性があります。

上越妙高~長岡間を特急しらゆきを使用した上越ルートで迂回できますが、特急しらゆきの接続性に依存します。一日5往復の運行ですので乗り継ぎしやすいとは必ずしも言えないように思います。

特急「しらゆき」は、2015年(平成27年)3月14日に北陸新幹線・長野駅 – 金沢駅間延伸開業に合わせ、上越妙高駅での新幹線(主に富山・金沢方面)との接続列車として、1日5往復体制で運行が開始された。新潟県上越地方から柏崎市や長岡市などを経由して新潟市とを結ぶ列車で、このうち3往復が上越妙高駅発着で、2往復が妙高市新井地区方面の利便性確保のため新井駅発着で運行されている。

しらゆき (列車) , Wikipedia, (引用:2019/10/16)

復旧までは、鉄道での東京~北陸方面への移動は長岡・新潟経由か、米原経由かのいずれかで移動するしかなさそうで、北陸新幹線開業以前に戻った感すらあります。

ちなみに筆者はこの運休期間中と思われる時期に北陸方面への移動予定があり、どちら経由で移動しようか検討中です。

・再認識させられた新幹線運行におけるJR西日本の不遇

JR西日本は新幹線の運行において難しい立場に立たされることが多い企業です。JR西日本エリアの新幹線は山陽新幹線と北陸新幹線がありますが、山陽新幹線は東海道新幹線を営業するJR東海の要望から、九州新幹線直通列車の東京乗り入れができません。

東海道新幹線は輸送力に対して輸送量が常にほぼ上限で推移し、編成両数の少ない九州新幹線を乗り入れさせている余裕がないからです。東京駅で東海道新幹線の電車を見ていると16両編成しかないのはそのためで、新大阪まで行けば山陽新幹線区間のみの列車や九州新幹線の列車など種類が増えます。

東京から直通することができている北陸新幹線でも、今回の営業実績を見る限り、北陸のJR西日本区間は東京側よりも輸送量が小さいことが読み取れます。

そのような状況の中直通運転が停止された北陸新幹線は、営業面で被災前に戻るのには少し時間が必要なように思われます。そんな中で特にJR西日本には耐えて頂きたいと思います。

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